紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  「害虫防除の常識」    (目次へ)

    2.有害生物(害虫)管理にあたって守るべき事柄

     7) 農業と植物防疫法とのかかわり

 植物防疫法とは?

 植物防疫法は昭和25年(1950年)に制定され、海外からの有害動植物(昆虫、ダニ、線虫、その他の無脊椎動物及び脊椎動物、病原菌、寄生植物、ウイルスなど植物に損害を与えるもの、ただし、雑草は含まない:以下病害虫と略す)の侵入を防止し、国内における病害虫のまん延を防止することによって、農業生産の安定と助長を図ることを主な目的としている。

 植物防疫法の主な内容は、次の5点である。
(1)輸入あるいは輸出する植物(農産物等)に付いた検疫対象の病害虫に対して、港湾や空港で国際植物検疫を行う。

(2)
新たに国内に侵入し、又は、既に国内の一部で繁殖している病害虫が種苗等に付着してまん延するのを防止のために国内植物検疫を行う。

(3)
新たに侵入し、又は既に国内の一部で繁殖している病害虫、および有用植物(農産物)の輸出を阻害する病害虫に対して、そのまん延を防止するために緊急防除を行う。

(4)国が指定する病害虫(分布が局地的でなく、急激にまん延して農作物に重大な被害を与えるもの)に対して発生予察事業を行う。

(5)
都道府県
は、病害虫のまん延を防止するために、病害虫防除所を設置して発生予察を行うなどの病害虫対策を行う。

 農家と植物防疫法とのかかわり

 植物防疫法(以下、農林水産省植物防疫所ホームページを引用した)は、上記のように病害虫の侵入とまん延を防止するための法律であるので、農薬取締法と並んで農家と最も関係が深い法律であると言える。更に具体的に少し詳しく、農家との関係について述べてみる。

(1)
国際植物検疫:農家が海外に行って、役立ちそうな果実や苗を入手した場合には、必ず植物検疫を受ける。わが国への病害虫の侵入を防止するために、特定の国からの輸入が禁止されている植物がある。例えば、ミカンコミバエの発生地から熱帯産の生果実などを持ち込むことは原則として禁止されている(輸入禁止地域及び植物)。ただし、省令で定めた輸出国での検疫や栽培地検査が適正に行われた証明書があれば輸入できるものもある。農林水産省令で定める種苗(指定種苗:第11表)を輸入する場合には、植物防疫官が必要と認めたときに、種苗業者に栽培地での隔離栽培を命じ、あるいは、植物防疫所で隔離栽培をして、病害虫が発生しないか検査することになっている。

 土壌中には線虫や病原菌がいることがあるので、土の付いた植物は持ち込めない。大量の種苗を輸入する場合は、事前に植物防疫所とよく相談し、検疫上の手続きをとる必要があること言うまでもない。これらを守ることは、わが国の農業を侵入病害虫の脅威から守るためであるという自覚が必要であるし、違反に対しては罰則がかかる(3年以下の懲役、又は100万円以下の罰金)。

 また、農家が農産物を輸出しようとする場合にも、植物防疫所で検疫を受けて合格する必要がある。農産物を輸出したい場合に、もしも、輸出先の国に生息していない病害虫がわが国の生産地で発生しているならば、輸出が難しい。輸出したい場合には、どのような防除条件や収穫物の消毒処理が必要であるのか、植物防疫所に問い合わせる必要がある。例えば、わが国には、ミカンバエというカンキツに寄生する害虫が生息しているが、ウンシュウミカンについては、モニタリング調査等を行って、ミカンバエが発生していないと確認された地域の生産園地からの果実に限って、タイ国への輸出が可能となっている(2007年6月)。

(2)
国内植物検疫:農林水産省令により指定された繁殖に用いる種苗(指定種苗)の生産者は、毎年、栽培地で国内検疫を受けることが義務付けれている。種苗生産者は、その合格証明書又は植物検疫官の発行する謄本又は抄本が添付されているものでないと譲渡したり、県外に移出させることができない。農家の側から言えば、そのような添付書類のないものは入手すべきではない。

 また、侵入病害虫等のまん延を防止するために、国内の定められた地域内(南西諸島や小笠原諸島)からの移動が制限されている植物(移動制限植物)、あるいは禁止されている植物(移動禁止植物)、および移動禁止病害虫(ミカンキジラミ、カンキツグリーニング病、アリモドキゾウムシ、イモゾウムシ、サツマイモノメイガ、アフリカマイマイ)があるので注意を要する。

(3)緊急防除:新たに国内に侵入した病害虫がまん延して農作物に重大な損害を与えるおそれがある場合や、有用な植物(農作物)を輸出するのに阻害要因となる病害虫に対して、国はその病害虫のまん延防止のために、区域、期間、防除内容をあらかじめ告示して、防除を行うことができる。また、農家に対してその病害虫が寄生する作物の栽培を制限し、あるいはその移動を禁止し、あるいは植物の消毒や廃棄を命ずることができるとされている。

(4)発生予察事業:国は、指定病害虫(施行規則第40条)について、全国の発生状況をまとめ、全国レベルでの病害虫の発生予察情報を定期的に出している(農林水産省のメールマガジンに掲載されるので、配信を希望する場合には登録する必要がある。ここへ)。指定病害虫としてはイネ、野菜、果樹、花といった農作物に寄生する病害虫が指定されており、内訳はトビイロウンカ、コナガなど害虫18種、いもち病菌、灰色かび病菌など病原菌21種となっている。

(5)
都道府県が行う事業:都道府県は、病害虫防除所を設置して、管轄地域内の発生予察を行う。病害虫防除所は、発生予察情報をホームページに掲載し、あるいは、電子メール、電話、ファックスなどで市町村、農協等の関係機関等に連絡している。病害虫防除所のホームページには、発生予察情報の他、農薬情報、病害虫図鑑など有益な情報が掲載されているので、利用するとよい。 
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